川を取り込んだ都市での暮らし
隅田川沿いの築30年のSRCマンションをリノベーションした設計者の自邸である。都市の集合住宅の中の暮らしは、利便性を追求しコンクリートや鉄骨でできた合理的な箱で閉じられている。
隅田川沿いを訪れた時、広い川幅と水面や水際で営まれる豊かなアクティビティを見て、都市の中でゆとりのある新しい暮らしを見つけることができると思い、計画をスタートした。
多くの集合住宅はnLDKによるプランニングが行われ、スタンプのように構成されている。それは部屋の目の前に自然が溢れていたとしても変わらない。 今回のリノベーションでは、川沿いの立地を最大限活かし、隅田川をただの風景ではなく、
暮らしの中に有機的に取り込むことを目指した。
集合住宅のプランでは、隅に配されることの多い水回りを中心に据え、L字型にワンルームが
繋がっていくプランニングとした。水回りコアの浴室にアクリル板の開口を設け、隅田川を眺め
ながら入浴を楽しむことができるなど、どの場所にいても隅田川を感じられる。
隣棟間隔の狭い都内の集合住宅にとって、L字型のワンルーム空間は隅田川沿いという地の利を
活かした自然光のコントラストを生んだ。コントラストに倣って、明るい空間にはワークスペース、
ダイニング、リビング、キッチンなどの居室を配置し、暗い空間は土間(収納)、クローゼット、洗面台などを配置した。床から壁を覆うラーチ合板は、自然光のコントラストをより際立たせ、水回りコアを覆う鉄板には川の揺らぎが映り込んだ。それぞれの空間を緩やかに分節する、透明なビニールカー
テンのマテリアルは隅田川をリプリゼントした。
川に開いた水回りのコアと最小限のマテリアルでできたワンルームという形式により、川沿いから
の光や気候の変化を知覚し、暮らしに取り込むことができた。48m2の小さな部屋を通して、移
り変わる都市の自然や営みを実感できる新たな暮らしが始まった。
所在地 | 東京都墨田区 |
設計監理 | 太田雄太郎 |
施工管理 | ゼロリノベ |
主要用途 | 住宅 |
竣工年 | 2021年 |
延床面積 | 48.6㎡ |